農家が小屋を建てるときの国産材とツーバイ材の使い分け
私にとって最初のDIYは、移住した古民家の改修だった。いろいろ問題の多い古民家だったが、その一つが水回りの設備が何もなかったことである。古い井戸は使い物にならなかったので、水道を引くところから始まり、トイレや浴室、キッチンも作らなくてはならなかった。初めてのDIYにしては、なかなかハードルの高い作業だったと思う。
そこで困ったことの一つが、どんな木材を使えばいいのかということだ。ホームセンターに行くと、樹種やサイズの異なるあまりに多くの木材があり、当時DIYの知識がほとんどなかった私は、迷った揚げ句に何も手にとらずに帰ってきてしまった。
その後、近所の製材所に相談して適材適所の木材を選んでもらったが、農家がDIYをやるうえで木材の知識は必要不可欠だ。そこで、私の経験からDIY初心者の木材選びについてお伝えしたい。
ここでは、木材を国産材、ツーバイ材、合板および集成材の三つに分けて紹介する。基本的に木材は作るものに適したサイズのものを選べばいいのだが、小屋などの建築物においては、構法により使用する木材が明確に異なる。柱や梁(※1)を構造体とする軸組構法の場合、通常使用するのはスギをはじめとする国産材だ。後述するが、そもそも国産材は、建築物の各部材に合わせてサイズが規格されているのだ。
もう一つは、床や壁や天井といった面を構造体とする枠組壁工法。ツーバイフォー工法とも呼ばれるが、その場合、基本的にはツーバイ材を使用する。
農家ではトラクターや収穫物を保管しておくための小屋はなくてはならないもの。建築物における国産材とツーバイ材の使い分けは覚えておいたほうがいいだろう。
また、木材を選ぶときは、まず作りたいものの簡単な図面を作り、必要なサイズと長さを算出する。1本の木材からなるべく無駄なく材料を切り出せるように設計するのもコツだ。
では、国産材、ツーバイ材、合板および集成材について詳しく説明しよう。
※1 建物の上部で水平方向に渡し、屋根や上層の床の荷重を柱に伝える材
加工しやすく建材として優れる国産材は農家DIY向き
DIYに向いているのは針葉樹
日本には多種多様な木が育つが、木材として利用されるのは、主にスギ、ヒノキ、マツといった針葉樹である。いずれも古くから建築に使われてきた木で、上にまっすぐ伸びる性質があり、成長が早いため生産性に優れる。なかでもスギは軽くて軟らかいのでDIY初心者の農家でも加工しやすい。
一方、ケヤキやナラ、クルミなどの広葉樹は、材質が硬く、樹種によって木目が個性的なこともあり、家具や室内の造作に使われることが多い。加工には技術が求められ、ホームセンターではあまり扱っていない。そのためDIYで広葉樹を使うことは少ない。
DIYでも、建築でも、通常使われるのはスギだ。ヒノキやマツは何か特別な理由がある場合に利用される。例えば、ヒノキは耐水性、耐久性に優れることから浴室や家の土台など水濡れや腐食が心配される場所に向く。特有のすがすがしい香りも好まれ、家の柱や床、壁などに用いられることも多い。ただし、スギに比べると価格は高価である。ちなみにスギやヒノキは日本だけに生育する固有種だ。
マツにはいくつかの種類があるが、一般にマツという場合、アカマツやクロマツをさす。強度があるため建築では梁や垂木(たるき※2)、筋交い(すじかい※3)などに使われるが、ちょっとしたDIYでは特に意識して選ぶ必要はないだろう。
※2 屋根の勾配に沿って掛けられ、屋根の下地を支える材
※3 建物のゆがみを抑えるために柱と柱の間に斜めに入れる材
尺貫法を踏襲した木材の規格
日本の木材は、長さの単位に尺、重さの単位に貫を用いた昔ながらの尺貫法が規格のベースとなっている。1尺は約30.3センチ、1寸は約3センチ、1分は約3ミリである。尺貫法は1959年に廃止され、現在は取引や証明で用いてはならないとされているため、ホームセンターで販売されている木材の寸法はメートル法で表示されているが、長さであれば1.82メートル(6尺)や3.64メートル(12尺)というのが一般的である。ものによっては1メートルや2メートルというサイズもある。幅や厚さは3センチ(1寸)、4.5センチ(1寸5分)、9センチ(3寸)、10.5センチ(3寸5分)など。DIYで何か作るときは、規格サイズをなるべく無駄なく使えるようにするといい。ちなみに農地の広さを表す反(たん)や町(ちょう)も尺貫法である。
木材のサイズによる名称
日本の木材は建築で使用される部位によって呼び方があり、例えば木口(こぐち※4)の断面積が4.5センチ×4.5センチの木材は根太(※5)、3センチ×9センチなら間柱(※6)、1.2センチ×15センチの荒いスギ板だったら野地板(※7)と呼ばれる。DIY初心者の農家には聞きなれない言葉が多いが、そこはあまり気にせずに必要なサイズの木材を選べば問題ない。
また、木材の中には商品名にKDと記されているものがあり、これは「Kiln Dry」の略で人工的に乾燥させた木材である。伐採したばかりの木は大量の水分を含んでおり、市場に流通させるためには、JAS(日本農林規格)による既定の含水率まで落とさなくてはいけない。人工乾燥はその方法の一つで、自然乾燥では数カ月から場合によっては1年以上かかるところを数週間から1カ月程度で仕上げられるのだ。効率的に乾燥ができるうえにゆがみなどの狂いも少ないので木材としても使いやすい。価格は若干高くなる。
※4 木材を繊維方向と垂直に切った面
※5 床板を支える下地材
※6 柱と柱の間にあって内壁や外壁の下地を支える材
※7 屋根や床の下地に使われる板
農家のDIYで幅広く使えるツーバイ材
ホームセンターで最もポピュラーな木材
北米で主流のツーバイフォー工法(※8)に使用される一連の木材で、その中心となるのが2×4と言われるサイズ。木口が2インチ×4インチであることからそう呼ばれているのだが、実際は3.8センチ×8.9センチで2インチ=5.08センチ、4インチ=10.16センチとは異なる。
※8 壁、床、天井などの面で建物を支える構造。建築基準法上の名称は枠組壁工法
ツーバイ材は図のように規格されており、長さもアメリカ式のフィート(ft)が使われる。1フィートは約30.48センチで、3、6、10、12フィートが一般的にラインナップされている長さだ。6フィートは約1.82メートル、10フィートは約3.05メートル、12フィートは約3.65メートルで、それぞれ尺貫法の6尺、10尺、12尺とほぼ同じなので使いやすい。
ツーバイ材に使われるSPFとは
ツーバイ材の樹種は、主にSPF(エスピーエフ)である。これはSpruce(スプルース、トウヒ類)、Pine(パイン、マツ類)、Fir(ファー、モミ類)の総称で、そのいずれかが使われているということ。いずれも成長が早く、上にまっすぐ育つ針葉樹で、適度に軟らかく加工しやすい。耐久性や耐水性はスギと同じくらいである(原木の生育環境などによっても異なる)。
ツーバイ材はSPF以外にもホワイトウッド(※9)やウエスタンレッドシダー(※10)、また、SPFに防腐剤を加圧注入したACQ材というのもある。ACQとは、「Alkaline Copper Quaternary」の略で、いわゆる防腐剤のこと。表面塗布ではなく木材の内部に加圧浸透させてあるためシロアリや腐朽菌を抑える効果が長持ちする。
DIY初心者の農家がちょっとしたものを作るならSPFツーバイ材は最も扱いやすい木材だ。農機具小屋を建てる場合も、軸組構法より、ツーバイフォー工法のほうが加工の難易度は低いので初心者向きである。
※9 ヨーロッパやロシアに分布するトウヒ類の総称。軟らかく加工性に優れる
※10 主に北米西部に分布するヒノキ科の樹木。耐水性、耐久性が高く、ウッドデッキの材料として人気が高い。米スギとも呼ばれる
幅広の板に使える合板や集成材
薄い板や小割の板を張り合わせた木質材料
山や森から切り出した丸太を、そのまま製材した木材を無垢(むく)材という。自然な木目や節があり、木肌の風合いや耐久性など、樹種によってそれぞれ特徴がある。そのため木材には必ずスギやヒノキなど樹種名が示されている。ツーバイ材も無垢材である。空気中の湿度で収縮や膨張といった変形が発生するのも無垢材の特徴で、大工やDIYのベテランはそれを考慮して木材を組み合わせる。
一方で、薄い板や小割りにした木材を接着剤で張り合わせた合板や集成材といった木質材料もDIYではよく使われる。
合板は、ダイコンの桂(かつら)むきのように丸太を薄くむいた板(ベニヤ)を重ね合わせたもので、無垢材では難しい幅広の板が作れる。一般的にホームセンターで手に入る合板は、厚さが2.5、5.5、9、12、15、24ミリで、幅×長さは910ミリ(3尺)×1820ミリ(6尺)。
合板の種類
ラワン合板、シナ合板と呼ばれるものは、材料にラワン(※11)やシナノキ(※12)を使っていることを示している。OSB合板というものもあり、これは「Oriented Strand Board」の略で、薄く削った木のチップを平行に重ねて積層し接着剤を使って高温圧縮した合板。表面のチップ模様が独特で、小屋の内装などに好んで使う人も多い。
コンパネと呼ばれるのは、コンクリートパネルのことで、建築の際にコンクリートを流しこむときの型枠として使うことを想定した合板。
構造用合板は住宅の壁や床などの下地に使用されるもので、構造に関わる部材として接着剤の性能や強度などがJASで決められている。
※11 東南アジアの熱帯雨林に育つ高木。合板の材料として広く使われる
※12 日本固有の落葉広葉樹。幹の直径1メートル、高さ30メートルの巨木に育つ
集成材とは
集成材は、小割りにした木材を繊維方向につなぎ合わせた木材。板材や角材など、無垢材と同じさまざまな形状で作ることができる。無垢材に比べて変形が少なく、品質が安定していることから建築に使われることも多い。
合板や集成材のデメリットとしては、接着剤を使用しているため水濡れに弱いことがある。屋外での使用に向いていないので、農家のDIYには不向きかもしれない。また、無垢材のような自然な風合いがないのも好みが分かれるところだろう。
ここで紹介した木材はホームセンターでも中心的に扱われている。それだけ用途が広いのだ。木材の種類はたくさんあれども、よく使う木材は意外と限られているのだ。これでもう木材選びは迷わない。