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農地を守りたい!農家の「困った」を助ける半農半X 僕のXは”農業オペレーター”

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自身の「困った」を助けてもらったことがきっかけで始めた”農業オペレーター”

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西田さんは4代続く農家、西田ヤ(にしだや)の4代目である。「一度、外のメシを食って来い」という西田家の習わしに従い「JAグリーン大阪」で営農相談員として勤務した。当時は祖父母、両親が現役だったので、休日に農作業を手伝う程度であったのだが、30代になった頃に事態は一変する。
「祖父母が現場離脱したと同じ時期に父親も体を壊して早期現場離脱したんです。私が仕事をしながら農作業に当たりましたが、とても追いつかず、農地がえらいこといなってしまいました」

そんな困り果てていた西田さんを助けてくれたのが、大阪の寝屋川(ねやがわ)市で農業を営んでいた西田さんの叔父だった。

「誰か草刈りだけでも助けてほしいと思っていた時に、叔父が助けてくれたんです。本当に助かりました」

農作業に必要な機械を新しく購入するにも後継者の見えない状態ではためらわれる。これからはもっと困っている農家を手助けしていく仕事が求められるようになるはずだと考えた西田さんは「僕がその役割を担おう」と決意する。10年間勤めたJAを辞め、半農半Xで農業を始めた。Xは農業オペレーターである。

「JAの退職金で最初に買ったのがトラクターです。東大阪は街中に農地が点在しているところが多いので、狭い農地でもみっちり活動できるサイズにしました」

繁忙期の田植え、稲刈り作業はいかに時間短縮して丁寧に仕上げることができるか、機械トラブルを出さずにスケジュール通りにこなせるかなどを考えて作業をする。しかし、稲刈りの時期は自身の農作業が後回しになるほどの忙しさだ。稲刈り籾摺りを幾度となく繰り返し、1軒でも多くの農家の収穫を終わらせ、また来年も稲を育てようと思ってもらえるか、次世代も水田を守ろうと思ってもらえるかを考えて活動しているのだが、なかなかそこまでは理解してもらいにくい。

また、休耕地の草刈りは草を刈って終わりではない。持ち主が農業を始めたいと思ったときにすぐに農作業ができる状態になるようにしている。

「12月は草刈りの注文が多いです。奇麗な状態で新年を迎えたいと思うんでしょうね」と西田さん。
時には、新規就農者が困って助けを求めに来るときもある。
「契約した農地が草ぼうぼうで困っている新規就農者も多いんです。耕すためのトラクターも無い状態の場合も多いので、僕がトラクターで耕してスタートに立つお手伝いをしています」

多品目野菜を捨てて目指す、米のブランド化

東大阪は大阪の都心に近く、消費者との距離は近い。西田さんは農業オペレーターをしながら1.5haの田畑で赤ジャガイモ、紫ダイコン、紅ダイコン、紅白ダイコン(ラディッシュ)などカラフルで珍しい野菜を栽培した。

「包丁使うときに切り口がピンク色のジャガイモだったらワクワクすると思って当時はあまり作っている人が少なかったカラフルな野菜を栽培していました」

しかし、農業オペレーターとしてあちこちの田畑に出向くことが増え、自分の畑がどうしても後回しになってしまうことが多くなる。体力と時間との戦いが常に付きまとった。

「作づけ時期が田植えと被ってきたり、歯車がうまくかみ合わなくなってきたんです。このままでは俺がくたばったら何もできへんと」

常に1人で何ができるか。どこまでできるかを模索し続けてきた西田さんは大きく方向転換を図ることにした。今まで栽培していたカラフル野菜などを縮小し、米に特化した栽培をする計画を立てた。

「祖父母や両親がやっていたときは人手もあったので、野菜や果物など何でも作ってきた農家で育ちました。米作りはおまけのようなものだったんですが、僕はそれを完全逆転させました。米作りのスキルはあるので、機械があれば人手が無くてもできるように特徴のある米に特化した栽培でブランド化を目指しています」

〇プロジェクトで指導する西田さん

「米から日本酒を造る」プロジェクトで農業指導をする西田さん(左)とシャンプーハットのてつじさん(右)

酒米、カレーに合う米作りで東大阪ブランド確立を目指す

2019年から開始した漫才コンビ「シャンプーハット」のてつじさんが企画する米から日本酒を造るプロジェクト「米から日本酒を造る」は、2024年で6回目を迎えた。西田さんは開始当時からプロジェクトの田んぼの管理と指導を担当している。
「東大阪産の酒米・山田錦100%のお酒は東大阪のふるさと納税品にもなったんです」

酒米をただ生産して売るだけではない。田植えから稲刈り、酒造りの工程をオープンにし、体験してもらうことも含めた活動である。

〇酒米イベント風景

「米から日本酒を造る」プロジェクトの稲刈り

「東大阪は農地を守るために水田を残している人が大半です。農地という目線ではなく、農地=財産なんです。米のブランド化は農地を守ることにもつながりますし、農地を守れば財産を守ることになります。酒米栽培はまだまだ伸びしろがあると思っています」

酒米作りは、これからの都市農業を意識した活動である。今までは山田錦を栽培してきたが、今後、力を入れていきたい品種は雄町(おまち)という酒米である。

〇雄町(おまち)7

雄町(おまち)を天日干し 稲がたくましい

栽培が難しいことから生産量が激変した幻の米といわれている酒米で、現在広く普及している酒米「山田錦」や「五百万石」のルーツとなった品種である。

「2023年に初めて植えたんですが、予想以上の作付けができました。雄町が生長した姿は野性味があるんです。”オマチスト”とよばれるファンもいるんです。東大阪の農産物はブランド力が無かったんですが、酒米はブランド化できる可能性があります。このエリアは河内(かわち)という場所なので、雄町の栽培を増やして”河内雄町”としてブランド化したいと思っています」

酒米=お酒にするためだけの米と思いがちだが、酒米にはまだまだ知られざる魅力があると西田さんは言う。「酒米は発酵しやすい品種です。ご飯のように炊いても酒米は甘味は無いし、普通に炊けばおいしいとは言えませんが、雑炊にしたら本領発揮したんです。わき役に徹したらめっちゃうまくて、鍋の出汁に炊き立ての酒米を入れたらサラサラになってうまいんです。炊き込みご飯にすれば、めっちゃうまい。リゾットにも合うので、リゾット専用米として売り出そうかなと思うくらいです」

酒米以外に栽培しているのがカレーに合うお米、カレー米「プリンセスサリー」だ。「プリンセスサリー」はインディカ米の「バスマティ」を日本で栽培できるよう改良した品種である。日本の米の「もちもち感」とインディカ米の「パラパラ感」「香り」の両方のよさを持ち合わせた米である。

「スープカレーやスパイスカレーに合うんです。チャーハンしてもめっちゃおいしいです」

酒米、カレー米の魅力はまだまだ未知数でそれだけに広がりが期待できると西田さんは言う。それぞれの特性を生かした米粉にも着目し、オーダーメイドで米粉にする動きも始めている。また、米作りの副産物としてできる籾殻販売と籾殻堆肥の販売、そしてワラの活用も進めている。

「酒蔵も小ロットで製造するところが増えてきました。フリーの杜氏の方もメンバーには居ます。酒米は売り先が見えているのでどれだけ作付けすればいいかが見えてきました。何カ所か田んぼを持っている農家に酒米作りを提案して定着させることができればと考えています」
処分ができないから放置したままの田んぼがあれば、そこで酒米栽培をすることでお酒になったときの楽しみもでき、やりがいも湧くはずだと西田さんは考えている。

農家を助けることは農地を守ることにもつながると始めた農業オペレーター。普通の農家に比べ何倍もの田植え、稲刈をしてきた西田さんの経験値は、米作りのブランド化に大いに役立つに違いない。西田さんの今後が楽しみである。

〇2西田さん

写真提供 西田雄一郎さん


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