【プロフィール】
■奈良迫洋介さん
株式会社くしまアオイファーム代表取締役社長 1982年生まれ、鹿児島県出身。高校卒業後、美容師見習いやニュージーランドでのワーキングホリデーを経て、鹿児島大学を卒業。インドの現地企業で翻訳業務、東京の貿易商社で経営管理及び食品の輸出業務に従事した後、2016年くしまアオイファームへ入社。2020年9月より現職。 |
■岩佐大輝さん
株式会社GRA代表取締役CEO 1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本および海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。 |
■横山拓哉
株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長 北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。 |
あるおばあちゃんの一言がきっかけで規模拡大
横山:今日は、宮崎県の南の南にある、串間市にやって来ました。
岩佐:今回は九州屈指の農業生産法人、くしまアオイファームさんです。日本を代表するサツマイモの農家さんで、さまざまな仕組みを作りながら、ものすごいスピードで成長を遂げていますね。
奈良迫:くしまアオイファームは、現・会長の池田誠が2013年に創業しました。まだ12期目で非常に若い会社ですが、毎年増収を遂げていて、第11期の売上は25億円でした。やっていることはシンプルです。サツマイモを作ってまたは買って、貯蔵して、付加価値を上げて販売しています。
岩佐:どうやって規模を拡大してきたのか教えてください。
奈良迫:貯蔵できるというサツマイモの特殊性があると思います。収穫したサツマイモは、熟成をさせながら販売をしていくことができるんですね。一般的には、9月〜11月ごろから翌年の4月、長くても6月ごろには売り切る。そして7月〜8月には新しいサツマイモが出てきて高値が付くというビジネスモデルです。
岩佐:なるほど。
奈良迫:池田は創業当時、平日の昼は通常の畑作業、夜は洗いと出荷作業、土日は催事に出店していました。その中で、海外輸出にもつながる大きな転機になったのが、あるおばあちゃんの一言でした。「私はこういう小さいお芋が買いたいのよ」「大きいお芋は食べられないの」と。そこから池田が小さいサツマイモのニーズがあることに気づいてフォーカスし始めたんです。高密植栽培という作り方も開発しましたが、やがて自社生産ではサツマイモが足りなくなり、協力農家から買い取るようになりました。
岩佐:ちなみにくしまアオイファームに奈良迫さんのようなすごい人たちが集まってくるのはなぜでしょう。
奈良迫:僕はイモが好きだったからですね。池田の魅力で集まったメンバーもいます。あとは池田が結構僕たちに任せてくれるんです。任せるといって「大事な時には口を出す」というケースはよくあると思うんですけど、そういうのは一切ありません。失敗しても全部僕らの責任という形で、いい意味で権限を委譲してくれています。
近隣の農家、農協とも協力して仕入れる
岩佐:協力農家はどうやって開拓していきましたか。
奈良迫:まずは近隣の人に、しつこく声を掛けました。サツマイモは重量作物なので、串間の農家は基本的に自分で農協などへ持っていきます。こちらとしても持ってきていただければ物流費を削ることができるので、「持ってきてください」とお願いしました。ただ、最初は「後で取りに行くので、小さいイモは別のカゴに分けておいてください」とお願いするところから始めましたね。
岩佐:農家にとってくしまアオイファームに持っていくことのメリットは何ですか。
奈良迫:シンプルに「農協より高く買います」と言っていました。あとは農協は基本的に、この地域で栽培されていた宮崎紅という品種しか作っていなかったので、例えば紅はるかなど、宮崎紅以外の品種を作れば、もう少し高い単価で買い取っていました。最初は経済的メリットの部分が大きかったですね。
岩佐:今は串間の農家の何割が持って来ているのでしょうか。
奈良迫:今はサツマイモ基腐病が原因で、もともとこの地域で700ヘクタールぐらいあった耕地面積が、今は約300ヘクタールになっているんです。そのため農協とも事業連携協定を結んでいて、串間の農家のサツマイモは基本農協に出荷し、僕たちが欲しいものは農協から買うという取り決めをしています。
投資で得られた気づき
岩佐:ストレージや集荷場、選果場にかなりの投資をされていますが、これは先行的にやってきたことなのでしょうか。
奈良迫:そうです。在庫がしっかり確保できれば、ある程度余裕を持って販売できます。これは後付けですが、ある程度規模が大きくなってくると、量を求める取引先も少なからずいるということも分かりました。例えば、取扱量が2000〜3000トンの時は、在庫は100〜200トンあって、その在庫をどこかに販売するために営業していました。その後、規模が大きくなって、在庫が1桁増えて3000トンになった時、商談の場で「いつまで出荷できるか」という質問が1つ増えたんですよ。「いつまででも出せますよ」と話すと「じゃあ取引もアオイファームさんにお願いしたい」という人が結構いらっしゃって。
岩佐:それは強いですね。
奈良迫:僕たちは安定供給できることが1つ大きな強みになっています。時代の流れとして、小さい小売店が淘汰(とうた)されていって、大きなスーパーが全国展開していく中で、全国展開しているスーパーとしては、サツマイモは野菜の中の1商材であったとしても、できる限り質は一定程度に担保したいし、欠品はもちろんないようにしたいし、単価もある程度コントロールしたい。そうなると、僕たちのような大規模な貯蔵庫を有している点が非常に大きな強みになって、ご愛顧いただけるようになるということに気づかされました。
川下ではなく川上を目指す
岩佐:今、販路は合計何社ぐらいあるんでしょうか。
奈良迫:約300あって、月によって異なりますが、毎月アクティブに動いているのは80〜100ぐらいです。トップの販路は売上の15%を占めていますが、本当は13%に抑えたいですね。リスクヘッジのために1社15%以上のシェアは取らないように気を付けています。
岩佐:BtoC事業もやっているんですか。
奈良迫:ごくわずかではありますけれども、通販とキッチンカーを用いた直売などもやってはいますね。
岩佐:でも25億円も売り上げていると、BtoCビジネスを大きくしたとしても経営的なインパクトはほぼなくなっちゃいますよね。
奈良迫:多分別会社にした方がやりやすいだろうなと思います。どうしてもBtoCにはプライオリティは置けないので。例えば催事で焼き芋などを出店しないのかというお声もいただきますが、僕たちとしては出店者側にサツマイモを供給するという裏方に徹しようという形でやっています。
岩佐:いわゆる6次産業化といわれているものとは全く別な、川下までやらずに、自分たちの領域であるイモのサプライヤーに徹するという戦略ですよね。
奈良迫:僕たちは川下の方というよりは、川上へ行こうと思っています。川下はいくらでも、プレイヤーはたくさんいるでしょうから。一方で川上は、特にサツマイモに関しては、熱い情熱を持って研究している人って農研機構しかいないんですよね。僕たちはそこに逆張りしようかなと思っています。
まとめ
岩佐:くしまアオイファームさんは素晴らしい点がたくさんありましたね。その中でもポイントを3つにまとめたいと思います。
くしまアオイファームの農業戦略のポイント | ||
① | MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)を明確にする | 社外の人が見た時に「自分がこの会社でどう活躍できるか」がイメージしやすくなり、自社にマッチした人材が集まりやすくなる。 |
② | 労働力の集約化、設備の集約化を行い複雑なビジネスモデルを確立している | 労働力を集約してオペレーションマネジメントを徹底し確実に規模を拡大する。同時に将来を見据えてきっちり設備投資もする。 |
③ | 方向性を定めて集中する | 6次産業化やBtoCを拡大するのではなく、BtoBに絞って集中する。自社の方向性を見据えて投資していく。 |
岩佐:6次産業化は本当に難しいんです。ほとんどの農家は6次産業化をやることで売上は上がるけど、利益額は減っているという現状があります。そういった罠に落ちていないということですね。6次産業化についてはまた今度深掘りしましょう。
以上、大きく3つがくしまアオイファームのポイントでした。みんなで真似して追いつきましょう!
(編集協力:三坂輝プロダクション)