Quantcast
Channel: マイナビ農業について –マイナビ農業-就農、農業ニュースなどが集まる農業情報総合サイト
Viewing all articles
Browse latest Browse all 546

農家1年目によくある失敗談まとめ 就農時の想定外を未然に防げ!

$
0
0

なぜ農家の失敗談はあまり出回っていないのか?

新規就農を考える際には、先輩農家の成功事例も知りたいけれど、それ以上に知りたいのが「失敗談」ですよね。僕自身もそうでした。情熱を燃やして農業の世界に足を踏み入れたものの、「作物が全滅してしまった」「倒産の憂き目にあった」「離農に追い込まれた」。そんなネガティブな情報にこそ、成功談にはない教訓がたくさん詰まっていると思うからです。

ただ、一般的なビジネスに比べると、この手の失敗談を知る術はほとんどないのが実情です。なぜでしょうか? 「ほとんどの新規就農者が成功している」と考えることもできますが、高齢による離農も含め、農家を辞める人が大量に出ている現実からすれば「単に失敗談がほとんど出回っていないだけ」と考えるのが自然です。

では、なぜ農家の失敗談はあまり出回らないのでしょうか? その最たる理由は「農家の大半は高齢者であり、世の中へ積極的に情報発信している人がごく少数だから」でしょう。

個人が世の中へ情報発信する手段として最も一般的と言えるのがSNSですが、40代の僕自身、そこまで積極的にSNSで情報発信する世代ではありません。農家の平均年齢は70歳に迫る勢いで高齢化が進んでおり、インターネットにすらほとんど触れていない人も多いのです。ちなみに僕の地元のJAでは、いまだにメールのやり取りすらされておらず、連絡はもっぱら電話とFAX。会合の通知は全て郵送です。こうした状況下で、教訓になる失敗談がネット上にたくさんアップされている方がむしろ不自然です。

そもそも論ですが、SNSで失敗談を公表しても、発信者本人には全くメリットがありません。一時的に「いいね」は集まるかもしれないけれど、それが自身の商売にプラスになることはまれでしょう。もちろん、発信の仕方次第ではSNS上に応援者が現れるかもしれませんが、それは一過性で終わる可能性が高いでしょう。むしろ、これまでの販売先が不安を抱くだけです。

また、地域と密接につながっている農業は、個人で営んでいるようで、周りとの連帯責任で成り立っている側面が大きいと言えます。個人のスタンドプレーがその他の農家に悪影響を及ぼしてしまう可能性もあるため、ネガティブな情報を発信しにくい構図があるのです。移住者が「この地域に移り住んで失敗した」という情報を発信すると「地域の有力者から攻撃を受けて炎上!」みたいなことになりがちなのも、こうした構図によるものだと思います。

農業の失敗談をまとめた本や記事があまりないのは、別の事情も絡んでいると僕は考えています。農業といっても、作物ごとに状況が異なり過ぎていて、どうしても「汎用性」が低くなってしまいがち。例えば、トマト栽培の失敗談がどれだけ詳しく書かれていても、キュウリ農家が読んで役立つ情報はあまりありません。本を作る時に求められるのは「汎用性」や「再現性」です。個々の作物の失敗事例を紹介しても響く人が限られるため、本が売れない。こうした構造が失敗談が表に出にくい要因になっていると思います。

1

誰しも農家の成功談より失敗談を聞きたいもの。ただこの手の情報は一般のビジネス以上になかなか出回らないのが実情です。(画像はイメージ)

就農や経営に関わる失敗事例

こうした実情もあり、冒頭で紹介したXの投稿者が望んでいるような「失敗談をまとめた記事や本」は、なかなか出回りにくいもの。ただ、農業の現場では日々さまざまな失敗が繰り返されています。僕も非農家から新規就農して15年。いろんな失敗を経験してきました。そこで本章では、周囲の農家から見聞きしたものを含めて、就農や経営にまつわる代表的な失敗談を紹介してみたいと思います。

有機栽培を志すも、病害虫が大量に発生してほぼ全滅

これは失敗例の代表格とも言える事例です。何を隠そう、僕自身も就農前には「やっぱり有機栽培でしょ!」なんて安易に考えていました。ただ、早々に難しいことが分かり、すぐさま慣行農法へシフトチェンジして現在に至っています。

あなた自身の目的が「農業をすること」「農家になること」なのであれば、無理して有機栽培に取り組む必要はありません。そもそも難しいから価値があるわけで、農薬や化成肥料の力を借りても満足に栽培する技術がない人間が、いきなり有機栽培に取り組んでも、生活できるだけの売上を確保するのは至難の業だと言えるでしょう。

運よく栽培できたとしても、その先には「販売」という難問が待ち構えています。あなた自身は有機栽培に心酔しているかもしれないけれど、世間は決してそうではありません。「スーパーより割高な野菜を喜んで購入する人は少数派だ」という現実を理解した上で、既存の農家にはない「営業力」「マーケティング力」を発揮できる人でないと早晩行き詰まります。

行政担当者のやる気が全くなく、話が全然進まない

あなた自身は「今後の農業を活性化するんだ」と意気込んでいるかもしれないけれど、行政の担当者も同じように前のめりとは限りません。むしろ農地を宅地や工場などに転用し、税収アップを図りたいと考えているかもしれません。あなたが住む、就農を考えている自治体が、農業に後ろ向きな可能性すらあるのです。受け身な姿勢で自治体の窓口にいくら相談しても、全く話が進んでいかないというケースは結構あります。

役場の担当者の多くは、3~5年くらいで部署を異動していきます。農業のことなんて全く知らない、興味がない人が「じゃあ来月から農業振興課ね!」なんてこともザラ。そんな人に新規就農の相談をしても、実のあるアドバイスを受けられるわけがありません。

行政の担当者には「失敗しないことが正義」という考えの人も少なくありません。無理して新規就農者を支援するより「体よく断っておいた方が無難」という真逆のインセンティブが働きやすい。そのため、受け身で待っているだけでは、本当に話が進んでいきません。こちら側から働きかけ、うまく人を動かしていくくらいの強烈な主体性がないと、新規就農のレールがきちんと敷かれている自治体以外で農家になるのは相当厳しいと思います。

補助金頼みの就農計画で、軌道修正を強いられる

新規就農を考える際、最初にもらえる補助金を当てにしている人も多いと思います。ただ、これも全てが思うように進むとは限りません。僕の周りでも、補助金が支給されることを前提に就農計画を考えていたけれど、直前になって「やっぱりダメ!」と言われ、大きな軌道修正を迫られることが何度もありました。

就農はいわば「起業」です。僕自身は就農時、1000万円以上の余剰資金を確保していましたが、一般的に何らかのビジネスで起業する場合、これくらいのお金を準備するケースが多いのではないでしょうか。特に農業は、パソコン1台でOKというわけにはいかず、それなりに初期投資と運転資金が必要となるビジネスです。そのあたりを考慮に入れ、補助金が思い通りに採択されなくても大丈夫なくらいのお金を用意しておくべきだと思います。

また、これは補助金全般に言えることですが、実際にお金が入金されるのはかなり遅れるのが一般的です。ある程度の手持ち資金を用意しておくか、融資を活用することになることを頭に入れておいてください。

畑の土地が全く借りられない。見つかっても放棄地ばかり

これは新規就農者の大半が失敗を経験することだと思います。土地を借りるのは、想像よりもはるかに難しいと肝に銘じておいてください。いよいよ就農するタイミングになって「そろそろ土地を探そうかな?」では遅いです。行政の窓口に直接足を運んでこまめに問い合わせる、地元の農家とつながりを作って情報収集するなど、数年前から少しずつ準備を進めておきましょう。

知り合いの新規就農者には、あえて地元の消防団に加入して人脈を作ったりしている人も居たりします。こうした地域活動には古くからの農家が参加しているケースが多く、農地を見つけ出す突破口になるかもしれません。

2

行政の担当者に任せきりにしていると一向に話が進まないことも。就農に向けて主体的に行動することが大事です。(画像はイメージ)

農作業や栽培にまつわる失敗事例

ここまでは就農や経営に関する失敗例をいくつか紹介しましたが、ここからはもう少し日々の農作業にフォーカスした失敗例をいくつか取り上げてみたいと思います。

マルチをきちんと張ったつもりがやり直し

よくある失敗例の一つだと思います。こうした失敗を防ぐために必要なのが「天候を把握すること」。僕は、ハウスのビニールやマルチを張る作業はもっぱら早朝に行いますが、これは「朝だと風が弱いことが多いから」です。

このように1日の天気の変化を意識して作業の段取りを組むことが大事です。慣れないうちは天気予報アプリなどを活用して天候の変化をこまめにチェックするのが良いでしょう。ちなみに僕もウェザーニュースの有料版アプリを愛用しています。

梅雨や秋雨で思ったように作業が進まない

こちらも天候がらみの失敗例です。1日の天気の移り変わりはもちろん、数週間単位の天候の変化にも常に気を配っておくことが大事です。

天気予報には限界があるものの、日本列島に梅雨前線や秋雨前線が停滞する時期は、毎年おおむね決まっています。雨の予報から逆算して作業を組み立てる癖をつけておきましょう。

農機具や資材の高騰、ランニングコストの見通しが甘い

農作業だけでなく経営面にも関わる話ですが、最近は農機具や資材の値上がりが続いており、想定以上の初期投資が必要になることが多いです。

これに加え、新規就農者が見落としがちなのがその後のランニングコスト。ハウスであれば燃料代が掛かりますし、農機具も定期的なメンテナンスや修理が必要になります。この点を踏まえた上で計画を立てておかないと資金繰りが苦しくなるでしょう。

播種・定植のタイミングを逃し、挽回できない

特に就農1年目は、播種や定植の適期を逃し、そのまま挽回できずに失敗することが多いです。農業は生き物を相手にする仕事ですから、工業製品のように後から巻き返すことができません。春の作業は春にしか、夏の作業は夏にしかできないわけで、1年間のサイクルで育てていく作物の場合、タイミングを逃すと1年を棒に振る可能性すらあります。

先輩農家にしっかり段取りを確認するなど、あらかじめスケジュールを把握しておくようにしましょう。

先輩への質問が遅れ、どんどんと作業が後ろ倒しに

上記の失敗例にも絡む話ですが、就農したばかりの時期は、先輩農家に分からないことを質問しようと思っても、そもそも「何を聞けばいいのかも分からない状態」だと思います。そんな中、予定していた作業を行う直前になって「この作業について教えてほしい」と質問に行っても、作業に必要な準備が全くできておらず、どんどん遅れていくということが起こりがちです。

定植や収穫などの作業をするためには、そのための準備や段取りが欠かせません。そのあたりを踏まえ、余裕のあるタイミングで質問する癖をつけておきましょう。

土地を返して欲しいと突然言われて困る

就農1年目で言われることはまずないと思いますが、数年経った頃に「土地を返してほしい」と言われるケースは結構あります。特に都市部などでは「あわよくば高値で売却したい」という期待を込めて農地を所有している人が少なくありません。そのため、10年間借り受ける約束をしていたにも関わらず、途中で反故にされるといったことは十分考えられます。元々の地主が亡くなり、相続を受けた子供が売却を希望するということも多いです。

これを防ぐのはなかなか難しいですが、普段から地主と密にコミュニケーションを取り、簡単に土地を売ろうと思われないような人間関係を構築しておくことが大事です。また、突然返してほしいと言われることを想定し、少し多めに農地を確保することも検討しておきましょう。

3

同様の作物を栽培している農家なら忙しくなるタイミングも同じ。先輩農家への質問は余裕を持って早めに行うのが吉です。(画像はイメージ)

失敗にどのように対処すればいいのか?

いかがでしたでしょうか。失敗例を挙げればキリがありませんが、今回の記事では、就農時に気を付けた方が良い事例を中心にまとめてみました。できるだけ汎用性の高いものをピックアップしたつもりなので、これから農業にチャレンジしたいという方はぜひ参考にしてみてください。

農業の失敗事例は、あまり汎用性が高いとは言えません。すでに述べた通り、作物が違うと失敗談をそのまま生かせないケースが多いからです。トマト農家が言うことを、タマネギ農家はそのまま応用できませんから。そのため、他の農家の失敗談を聞く時は、自分なりに咀嚼(そしゃく)したり、自身が育てている作物に変換して活用することが大事です。

事前に失敗談を聞いていても、全てを未然に予防するのは難しいです。天気を予測するといっても限界がありますし、「土地を返してほしい」と言われるのを完全に防ぐなんて無理でしょう。「こんなことがある」と理解しておくことは大切ですが、全ての失敗の種を事前に潰しておくのは不可能です。そもそも農業とは、自然という不確実性の高いものを相手に行うビジネス。それを肝に命じておくことが大事です。

下記の過去記事でも触れていますが、何より大事なのは「まずは小さく始めること」だと僕は思います。少しずつ失敗を経験しながらその対処法を学んでいく。いきなり大風呂敷を広げて取り返しのつかない大失敗をし、息の根が止まるようなことは絶対に避けなければいけません。まずは多少の失敗が許される身の丈に合ったサイズから始め、少しずつ規模拡大を図っていくようにしましょう。

4

くれぐれもいきなり大風呂敷を広げないこと。少しずつ失敗を重ねながら上手な対処法を学んでいくことが大事です。(画像はイメージ)


Viewing all articles
Browse latest Browse all 546

Trending Articles