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【施設園芸界のレジェンド登場!】“もうかって休める”農業経営のためにやったこと【岩佐と紐解く戦略的農業#11】

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【プロフィール】
■高瀬貴文さん

株式会社果実堂 代表取締役社長
大阪府出身。2001年に建築士として住友不動産に入社。2010年から果実堂の技術指導を行うコンサルティングを担当し、翌年入社。2015年6月、取締役 技術開発本部長 兼 栽培管理本部長・技師長に就任。2019年からは創設者から会社を受け継ぎ、代表取締役に就任。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

ロジカルな農業を追求

岩佐:まずはこれまでの果実堂の歩みを教えてください。

高瀬:僕らが目指すところは、サイエンス農業。単純にマーケットインという形ではなくて、15年ほどロジカルな農業を追究してきました。その結果が今の会社の母体になっています。

岩佐:代表的なのは「高瀬式14回転ハウス」ですよね。回転数を上げるには改善が重要になると思いますが、どうやって取り組んでいますか。

①

高瀬:毎週1日1時間、各部署で時間を取り、部署を横断して改善会議をやっています。具体的には、「実現可能性」「重要性」「解決可能性」の3つの視点で、やりたくない仕事を挙げていき、それを無くしたら何時間削減できるかを話し合います。農業は好きだけど、やっぱり休めること、稼げることも追求したいので、改善を突き詰めないと乗り越えていけないよねと話しています。

岩佐:高瀬式のすごいところは、余計な投資を一切しないこと。最低限の簡便なハウスで、入れるべきテクノロジーはがっつり入れています。

高瀬:現在はハウスが高くなりすぎて回収に5年ほど掛かっています。ですが基本的には3年回収を投資の基準にしています。

岩佐:高瀬式でやると、大体1億円のプレイヤーだと営業利益率はどれぐらいを目指せるんでしょうか。

高瀬:例えば社員の給料などいろいろあると思いますが、他の農業法人にコンサルした経験で言うと営業利益率は5〜10%ぐらいになりますね。

農業界全体の課題解決にも挑戦

岩佐:今、果実堂のビジネス規模はどれぐらいですか。

高瀬:今期は約25億円ですが、大体年率10〜12%ぐらいで推移してきています。ここからちょっとギアを入れて、新しい事業を始めています。

岩佐:生産だけじゃなくなるということですか。

高瀬:僕らはだいぶ休めるようになったし、稼げるようにもなりました。でも昨今就業人口がどんどん減って、「農業はきつい」という話もあります。このまま僕らが良くなっても、農業全体が良くなるわけじゃないなと思ったんです。それで3年前から果実堂が農業法人をコンサルするという事業をやっているんですよ。

②

岩佐:高瀬式を取り入れてもらっているんですか?

高瀬:お困り事を解決する。だからやり方を押し付けるわけじゃなくて、経営者が抱える1番の問題点を解決してあげることに取り組んでいます。コンサルティングといっても、実は無料なんですよ。交通費も取ってないです。

岩佐:タダで行きますよ、皆さん。

高瀬:その代わり、うちのお客さんであるスーパーに供給して、流通フィーでコンサル代を稼いでいます。僕らが指導することによって収量は絶対上がりますから、上がった分を売らせてもらうという形ですね。

岩佐:相手とのコンフリクト(対立)を作るわけではないと。

高瀬:あとは原価低減ですね。例えば肥料を1袋で良いのに、怖いから2袋撒いてしまうケースって多いんですよ。でも肥料学や土壌学がちゃんと分かれば、撒く労力が減って原価も下がります。実際1番下がったのは、1億円ぐらいのプレイヤーのところで、年間の肥料代が500万円削減できました。

トップが介在し改善の習慣化を徹底

岩佐:社員の皆さんに改善の習慣が定着するまでどれぐらい掛かりましたか。

高瀬:5年以上は掛かっていますね。うちの禁止用語は「イレギュラー」です。イレギュラーはほぼレギュラーだと思っています。例えば大雨が降っても、ちゃんと水路を整備していたらビニールハウスは浸水しませんよね。水路があふれてしまったら、イレギュラーになりますが、大雨そのものはレギュラーです。これはかなり徹底して伝えました。それでも習慣化には時間がかかりましたね。

岩佐:どこまでリーダーがコミットすれば実現できるんでしょうか。

高瀬:僕らは変わることをいとわないと思っているんですよ。実際どの部署も変わっています。人間は変化を嫌うので、そこに僕らトップが介在して改善に乗り出しています。昔は社員から「高瀬また何やってんねん」とか、聞こえてくるぐらい伝わることもありました。でも今のメンバーは変わることが当たり前だと思っています。

岩佐:すごいですね。

高瀬:来社された人にも聞かれますが、もう継続的にやるしかないです。逆にコツコツやれば絶対成功します。何かイレギュラーが起こったからやめましたといっても、来週からまた再開すればいい。なのにそこから途切れちゃうことが常ですから。途切れさせないことが、すごく難しいです。

③

販管費にも投資する

岩佐:今、社員数は何人ですか。

高瀬:63人ぐらいで、パートさんが120人ぐらいですね。そのうち生産に関わっている人は32人です。

岩佐:半分ぐらいが管理部ですね。農家さんを見ていると、製造原価寄りのコストに傾倒しがちですが、きっちり販管費に投じている。

高瀬:月次の決算は3日で出しますよ。その月次を見てすぐ手を打てます。あとは人のケアもあるので、総務部の人員を厚くしていますね。

岩佐:その3日で締めるというのは、何年目で達成できたんですか。

高瀬:私が社長になって1年目で達成しました。全てのタクトタイム(製造時間)を記録してボトルネックを確認し、それに対してどれぐらい削減できるかを突き詰めたら、3日でできました。決算が出た翌週の月曜日の朝礼で、全社員に月次決算を報告しています。

岩佐:約60人がどういう状況だったかを把握しているんですね。

チームプレーでDXを加速

岩佐:モニターがたくさんあるこの場所は果実堂のオフィスです。日本DX大賞2024のSX部門大賞を受賞した果実堂に、RPAを実演してもらいます。お客さんの発注書をロボットが回収するシナリオです。

④

横山:サイトへアクセスしてIDとパスワードを入力してログイン、データのダウンロード……全てロボットがやっているんですね。これは構築するまでどれくらい掛かりましたか。

高瀬:構築自体は約5日間ですね。社員が作ってくれて毎週シナリオが何個か出来上がっています。今項目だけで250ぐらいありますね。

岩佐:チームプレーでDXを加速させているのが果実堂の強さですよね。

横山:高瀬さんはもともとRPAに詳しかったんですか。

高瀬:新聞で銀行がRPAに取り組むと読んで、農業界でも使えるんじゃないかと。私がロジックを組んで、あとは社員が構築してくれます。

※RPA(Robotic Process Automation)。ロボットやソフトウェア、AIなどによる業務の自動化。

まとめ

岩佐:果実堂の戦略のポイントを3つにまとめました。

果実堂の農業戦略のポイント
イシュードリブンで必要最低限の投資を行う 経営において何を改善するのか見極めて、テクノロジーを導入する。それを内製することで導入後も社内で改善が進むという好循環が生まれる。
中長期的な視点で販管費にも投資する 製造原価を下げるだけでなく、マーケティングや研究開発にも投資することで、持続的に成長することができる。優秀な人材も集まりやすくなる。
変化を恐れない 謙虚さを持って新しい技術を受け入れれば、更に改善を進めることができる。

岩佐:成功している農業者の皆さんも、自分の成功体験に溺れることなく常に謙虚さを持って、変わることを恐れない。そして新しいものをどんどん取り入れていくことが大切だと思いました。


(編集協力:三坂輝プロダクション)


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