付加価値とは、商品力だけじゃない
インフレでさまざまなコストが上がっている中、これまで以上に高い値付けができなければ、地元の生産者から見向きをされなくなってしまいます。
とはいえ、当然のことながら、消費者の所得が大きく伸びているわけではないため、値上げは簡単なことではありません。何かしらの付加価値が必要です。そのためには、出荷者の努力だけでなく、店舗スタッフの努力もまた重要です。
出荷者ができることは、野菜などの商品をより魅力的にすることだけ。しかし、小売店舗が提供できる付加価値は、商品以外にもたくさんあるのです。
本稿の主張は、小売店舗が本来持っているポテンシャルを最大限に生かそう、ということです。その結果として、より高値でも売れる直売所に変化することができるのです。
連載「直売所プロフェッショナル」で度々指摘したことですが、直売所スタッフの主体性が100%発揮されていないお店も多いです。故に、ポテンシャルがありながらも、多くの直売所経営者がスルーしてきたポイントが存在します。
具体的には、以下の3つのポイントは比較的軽視されてきたのではないでしょうか?
■空間価値
■接客価値
■加工品品質
それぞれ解説していきます。
空間を変えるために今すぐできること【空間価値】
一般論として直売所は空間を重視していないことが多いです。
立派な建物が必要ということではないです。重要なのは〝買い物をするときにワクワクするかどうか〟です。
外見のデザインも大事ではありますが、空間を構成する要素は多様です。レイアウト、照明、看板、のぼり、POP、陳列、BGMなどなど(更に言えば、匂いもひとつの要素です。焼き芋の香りなどが代表例)。そうした空間を構成する要素の全てから消費者はお店からのメッセージを受け取っています。
言い換えると、直売所は新鮮な商品であふれていますが、消費者は新鮮な商品を買いに来ているだけではないということです。商品を選ぶ時間を楽しみたいのです。特に週末に客数が多い直売所ではその傾向が強いでしょう。
本来ならば、店舗空間の全体をコーディネートし、丁寧に栽培されたフレッシュな商品を並べていることを、雰囲気でも醸し出したいところです。
とはいえ、店舗のデザインを大幅に見直すのはコストも手間も掛かるため、ここではすぐにできる3つのポイントを記しておきます。
(1)入った瞬間に、ワオ!という感情が湧くかどうか。その観点だけでスタッフどうし議論してみましょう。おそらく、複数の改善点が見つかるのではないでしょうか。入った瞬間に気持ちが盛り上らなければ、財布のひもは緩みません。
(2)大型で天井が高い直売所は別として、蛍光灯の白色はおいしそうに見えません。また、照度が低いお店はすぐに照明を増やしましょう。ランニングコストの安いLED照明は、現在ではさまざまな色や形状が選べますので検討しましょう。
(ランニングコストが安くなる、あるいは環境に優しいという理由を付ければ、運営母体から費用を出してもらいやすいかもしれません。)
(3)のぼりやPOPに既製品を使うのをやめましょう。消費者はそれが既製品であることに気づいています。店として一定の基準を定めて、それに則ったデザインのものをオリジナルで作成しましょう。現在では既製品でもオリジナルでも価格差はあまりありません。
無人化するスーパーへの逆張り【接客価値】
次に接客品質です。
消費者が買い物の時間を楽しむには空間だけでなく、接客も重要なポイントです。
多くのスーパーはこれから無人化していきます。そうすると、有人の直売所は地域で貴重な場所になっていきます。レジや売り場でひと言声を掛けるだけで差別化が可能になるのです。
これを読んでくれているのが直売所スタッフであれば、自分自身が先頭に立ってお客さんに話し掛けましょう。そして、接客について指針を作り、パートも含めたチーム全体で取り組むようにしましょう。
また、連載「直売所プロフェッショナル」では、「熱狂野菜」が直売所において大事だと主張しました(詳しくは下記の関連記事)。熱狂野菜とは、他で手に入りにくいけれどファンの多い野菜のことです。熱狂野菜の存在は直売所にとって大きな付加価値です。ただ、見掛けることの多くない野菜なので、スタッフによるオススメが大事になります。
スタッフが特定の商品をオススメするという施策は、例えば店長が「今月は●●をオススメします」と宣言しただけでは、効果がありません。前提条件として、普段からスタッフとお客様との間で頻繁に会話がなければ、オススメしようにも難しいわけです。
いずれにしろ、直売所にとって接客も付加価値になることを、スタッフ全員で再確認したいところです。
バイヤー気質へのマインドチェンジ【加工品品質】
多くの直売所では、地元の出荷者が持ち込んでくる野菜や果物はきっと自信を持って販売できていると思います(そうでないなら重症です)
一方で、菓子や漬物、調味料、乳製品、乾物といった加工品はどうでしょうか?
地元のメーカーやJAの商品を、無造作に置いていることもあるでしょう。
あるいは、厳しいことを言えば、出荷者のいわゆる6次産業化商品も置いていると思いますが、消費者に真に求められている商品かどうか怪しいのでは……。
店頭を眺めてみて、ここでしか買えない、ファンがわざわざ買いに来る加工品がどのくらいあるか点検してみましょう。
「けっこうおいしいね」くらいではダメです。わざわざ買いに来るほどの加工品です。
また、店頭に魅力的な加工品があったとしても、消費者に気づいてもらえる施策をしていますか?併せて確認しましょう。
これからの直売所の付加価値として、加工品の品質は見逃すことができません。大きく3つ理由があります。
(1) 加工品には端境期がないため、わざわざ買いに来てくれる加工品があればインパクトが大きい。
(2) インフレでのコストアップは客単価を上げてカバー。野菜・果物に加えて加工品を買ってもらえるかで客単価は大きく変わる(多くの地域で人口は減少しており、客単価がより重要になる)
(3) 加工品は委託でない場合が多い。したがって、インフレに伴って値上げが可能なだけでなく、店舗としてさまざまな陳列や販売方法を展開することができる。後述する「直売所デフレスパイラル」を止めるきっかけになり得る。
以上のことから、魅力的な加工品が必要になるわけですが、そのためには直売所スタッフには「バイヤー気質」が求められます。バイヤー気質とは、加工品を積極的に探索し、メーカー間で比較検討し、ときにはチャレンジングな商品も仕入れ、より魅力的な品ぞろえを目指すマインドです。
委託式の野菜や果物がメイン商材であった直売所では、これまでは必要がなかったマインドかもしれません。しかし、インフレ下では、そのマインドを変えることが求められていると思います。
直売所デフレスパイラルを止めるために
ここまで、直売所スタッフが作ることのできる付加価値を説明してきました。
とはいえ、もちろん、最終的には出荷者が持ち込む商品力が大事です。
もし商品力がだんだん下がっているとすれば、前編で「直売所デフレスパイラル」という悪循環を紹介しましたが、それが起きているのではないでしょうか。
この悪循環をどこで止めればよいのでしょうか?
あなたが出荷者であれば別ですが、直売所スタッフであれば方法はひとつしかありません。
それは、価格は高いけれど、品質も高い商品をしっかり売ること、です。
価格が高い商品をどうしたら売れるかと考えれば、前述した、空間や接客の改善に取り組みたくなるのではないでしょうか?
商品を売るのは出荷者の仕事ではありません。直売所のスタッフが、主体的に取り組むべきことです。
出荷者が品質の高いものをなかなか回してくれないこともあるかもしれません。そのときは前述のように加工品から取り組むのも良いでしょう。価格の高い加工品をしっかり売っている姿を見せれば、出荷者も考えを変えてくれます。
一朝一夕にできることではありませんが、これからも直売所を運営するコストは上昇していくことが予想されます。安値を求める消費者だけを相手にしていたら、どんどん厳しくなってしまいます。
すぐに取り組みを始めることが肝要です。