とんぶりはどんな食べ物?
とんぶりは、アカザ科ホウキギ属の一年草であるホウキギの成熟果実を加熱加工して食用とした製品です。ホウキギは、ホウキグサ、ホウキソウとも言い、英名はコキアです。その実を加工処理した「とんぶり」は、秋田県の特産品で、見た目やプチプチとした歯応えが魚卵のキャビアに似ていることから「畑のキャビア」と呼ばれています。県を代表する魚、ハタハタの卵(ぶりこ)が「とんぶり」の語源とされています。
秋田県の特産品で大館市が産地
ホウキギは、平安初期に中国から日本へ伝わり、江戸時代には日本各地で栽培されていました。その茎は文字通り箒の材料として、果実は漢方薬の「地膚子(ジフシ、チフシ)」として利用されていましたが、飢饉(ききん)の際に現在の秋田県・比内地方で、なんとか食用にしようと加工されたのが始まりとされています。とんぶりの加工は難しいため、他の地域には普及せず、現在では秋田県大館市が国内唯一の産地とみられています。「大館とんぶり」は、2017年に地理的表示保護制度(GI)に登録されました。
プチプチとした歯応えが特徴
とんぶりは、直径1〜2ミリの深緑色の粒でそれ自体は無味無臭で、プチプチとした歯応えを楽しみます。納豆やヤマイモなどの粘りけのある食品と相性がよく、豆腐などの淡白な食材と合わせると互いが引き立ちます。
ビタミン・ミネラルをバランスよく含む
とんぶりは、ビタミンA(β-カロテン)、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、ナトリウム、カリウム、 マグネシウム、カルシウム、マンガン、リン、鉄、銅、亜鉛などのミネラル、食物繊維、たんぱく質をバランスよく含んでいます。
果実を薬用とした「地膚子」は、星形の傘のような花被片が付いた状態で流通し、利尿・強壮作用があるとされ、血糖値の上昇を抑える効果がみられるサポニンが多く含まれています。
旬は秋、10月は新物の季節
とんぶりの原料であるホウキギの枝葉は、夏は爽やかな緑色で秋になると紅葉し、10月~11月に果実が収穫されます。成熟した実はコンバインなどで刈り取り・脱穀され、天日干しまたは乾燥機で一週間ほど乾燥させます。乾燥した実は釜で煮て湯温で処理してふやかした後、実をもみ、果皮(外皮)を取り除き、脱水してとんぶりが作られます。10月には新物が出回り、この時期を心待ちにしているファンもいるそうです。
とんぶり(ホウキギ)の栽培方法
暑さに強く、寒さに弱いホウキギは、日当たりと水はけのよい土地を好みます。ある程度根を張ったら、手をかけなくてもよいので、育てやすい植物です。一般的に販売されているホウキギ(コキア)の種は主に観賞用で、夏はライトグリーンの葉が涼しげ。秋は燃えるような紅葉が楽しめて、果実も採ることができます。
種まき
適期は4月~5月。植え替え時に根を傷つけると根付きしにくくなるため、じかまきがおすすめです。種が細かいので風に飛ばされないように注意。幅70cmほどの畝に株間30cmほどの間隔で筋まきします。発芽温度は15℃以上で、発芽日数は7~12日ほど。成長に合わせて間引きをします。
ホウキギ栽培のポイントは根付きです。茎葉が大きく茂るわりに根の張りは小さいため、草丈が60cmほどになったら、株の周囲をひもなどで囲うか支柱を立て倒れるのを防ぎます。
追肥と土寄せ
2週間に1回、1平方メートルあたり約30gの化成肥料を施して、土寄せをします。肥料は窒素分が多いと草姿が乱れるので成分のバランスに気をつけましょう。
収穫
紅葉が終わり、10月~11月ごろに葉が黄色くなり、実が褐色になり始めたら収穫適期です。茎を切って収穫します。
とんぶりへの加工は、茎から実を取り外し、干して乾燥させた後、たっぷりの湯で煮て水切りをして半日ほど置きます。その後は手で外皮をもみ取り、水洗いを2~3回繰り返して汚れや薄皮を取り除きます。産地の大館市では地域独自の加工技術でこれを製品化しています。
「畑のキャビア」とんぶりの食べ方
製品として市販されているとんぶりは、開封してそのまま食べられます。加工時に雑菌予防のためクエン酸処理をしているので、酸味が気になる場合は、水洗いしてキッチンペーパーなどで水分をよく拭き取って料理に使います。
料理にあえる・混ぜる・ちらす
とんぶりは、淡泊でくせのない味わいなので、どんな調味料とも合い、他の材料と合わせることでプチプチとした食感が引き立ちます。産地では、納豆、ヤマイモ、豆腐などと合わせるのがポピュラーな食べ方です。また、「畑のキャビア」と呼ばれるように、料理にちらしたり、トッピングしたりすると華やかな仕上がりになります。
食感が損なわれないよう、熱を加えすぎない
とんぶりは、水分量の変化で食感が失われることがあるため、炒め物や煮込みなど熱を加える調理には向いていません。また、塩分の強い調味料や食品とあえたときは、水分が抜けないように、あまり時間を置かずに食べましょう。
保存方法
製品としてのとんぶりは、びん詰、真空パックなどの形態で販売されています。未開封の場合の消費期限は、びん詰は製造日から約9カ月、真空パックは2カ月程度がおおよその目安です。
開封後は冷蔵庫に保存して早めに食べましょう。冷凍保存する場合は、小分けにしてラップで包んで空気を抜き、冷凍用保存袋に入れて3週間程度。食べるときは冷蔵庫に移して自然解凍するか、目の細かいザルにあけて流水で解凍します。
とんぶりの食感が楽しいレシピ5選
食材としてのとんぶりの特徴である、キャビアのような見た目とプチプチ食感が楽しめる料理レシピを集めました。あえものから、オードブル、主食系まで、手軽に作れます。
長いもとオクラのとんぶりあえ
とんぶりは、ねばねば野菜と好相性。野菜だけで食べ応えのあるおかずになり、ご飯にのせて丼物の具にもなります。
材料(作りやすい分量)
- とんぶり 40g
- 長いも 80g
- オクラ 4本
- 削り節 1パック(5g)
- しょうゆ 大さじ1
作り方
- オクラは鍋に湯をわかして30秒ほどゆで、ヘタを切り落として、輪切りにする
- 長いもはビニール袋に入れ、めん棒などでたたいて砕く
- ボウルに、とんぶり、オクラ、長いも、削り節を入れ、粘りが出るまで混ぜ、しょうゆを加えてさらに混ぜ合わせる
※わさびじょうゆでもおいしい
とんぶりを魚卵に見立てたシンプルなパスタ。ニンニクバターしょうゆととんぶりがパスタに絡んで食欲をそそります。
材料(2人分)
- とんぶり 80g
- スパゲッティ 200g
- バター 40g
- ニンニク 2かけ
- 唐辛子(種を取る) 2本
- しょうゆ 大さじ2
作り方
- 鍋に湯をわかして、塩(分量外)を加え、スパゲッティをゆでる
- フライパンにバターを熱して、ニンニク、唐辛子を炒めてスパゲッティを入れ、とんぶり、しょうゆを加えて手早く混ぜたら、火を止める
- ボウルに、とんぶり、オクラ、長いも、削り節を入れ、粘りが出るまで混ぜ、しょうゆを加えてさらに混ぜ合わせる
※きのこやツナ缶などの具とも好相性
とんぶりポテトサラダ
淡泊な食材やマヨネーズなどの調味料と合うとんぶりは、ポテトサラダのアクセントにもぴったり。
材料(2人分)
- とんぶり 20g
- ジャガイモ 1個(150g)
- タマネギ 1/4個
- キュウリ 1/4本
- マヨネーズ 大さじ2
- 酢 小さじ1
- 塩 適宜
- こしょう 適宜
作り方
- ジャガイモはゆでて潰し、塩・こしょうで下味をつける
- タマネギはスライスして水にさらし、キュウリは薄くスライスして塩(分量外)でもみ、水気を取る
- 1と2、とんぶりをボウルに入れ、マヨネーズを加えて混ぜ合わせる
とんぶりとスモークサーモンのカナッペ
まるでキャビアのように、とんぶりをカナッペにたっぷりのせると華やかさアップ。畑のキャビアは淡泊で塩みがなく食べやすいのも魅力。
材料(8個分)
- とんぶり 20g
- クリームチーズ 80g
- スモークサーモン 40g
- クラッカー 8枚
- オリーブオイル 小さじ1
- 塩 適宜
- こしょう 適宜
- レモン汁 適宜
- パセリ(飾り用) 適宜
作り方
- とんぶりはボウルに入れ、オリーブオイル、塩、こしょう、レモン汁を加えてあえる
- クラッカーにクリームチーズを塗り、一口大に切ったサーモンをのせる
- 2の上に1をのせ、皿に並べてパセリを飾る
とんぶりおにぎり
おにぎりの具材としてもアクセントになるとんぶり。素朴な味わいながら、ご飯ととんぶりはお互いを引き立てます。
材料(2個分)
- とんぶり 20g
- ごはん 100g(茶碗に軽く1杯)
- めんつゆ 小さじ1
- 塩水 適宜
作り方
- ボウルにとんぶり、めんつゆ、ごはんを入れ混ぜ合わせる
- 手に塩水を取り、1をにぎる
※郷土色豊かに秋田特産のいぶりがっこ(分量外)を添えて
大館市に製法が伝わるとんぶりは、秋に食べたい伝統野菜
「畑のキャビア」と呼ばれるとんぶりは、ホウキギの実を熱処理して外皮を取った加工品。秋田県が選定する「あきた伝統野菜」の一つで大館市は生産量日本一かつ唯一の産地。「大館とんぶり」としてGI登録されています。
秋が実の収穫期で10月が新物が出る旬の時期。びん詰めや真空パックで全国的に流通していますが、その生産量は年々減少していることに加え、2023年は例年の2割という不作だったこともあり、手に入りにくい味覚になりつつあります。新物が出たらぜひ楽しんでください。
ガーデニングで人気のコキアはホウキギの英名。実がなったらとんぶり作りをしてみると、加工の難しさが体験できるかもしれません。
編集協力:一般社団法人日本伝統野菜推進協会